「リリイ・シュシュのすべて」を観て

 どんなに衝撃的なインパクトも、どんなにスペクタクルな感動も、時間が経つとともに色褪せていってしまうというのが人の常である。実際、若い時分、あれだけ何度読み返しても飽きのこなかった『ノルウェイの森』も、齢を重ねた後に手に取ったとき、さほど感銘を受けずに読み終えてしまい、歳を取ることで、自分が違う人間になってしまったかのようで、ひどく侘しさを感じた。わけもなく何かを裏切ってしまったかのような罪悪感すらあった。


 で、僕のなかの「映画」というカテゴリで、とにもかくにもナンバー・ワンの影響力ともいえるのが、岩井俊二監督の「リリイ・シュシュのすべて」。今となってはキャラが確立している市原隼人蒼井優も、このデビュー作においては、(当たり前のことだが)まったくをもってして不安定で未完成な役者であり、ところがそこから放たれるリアリティというものが、ひどく観る者の心を揺さぶるわけである。僕もその魔力にやられた一人だ。ただ、かれこれ数年、(少なくとも東京を離れてから)この映画を観返していないため、先に述べたような「今観たら、まったくおもしろさを感じないかもしれない」というような恐怖が日に日に増していくばかりであった。とはいえ、なんとなく長期出張時に、DVDをトランクに忍ばせておいた。観るなら、現実を離れたこのタイミングなんだろうなと。で、実際のところ、出張中に3時間近い映画を観る時間はなかなかつくれなかったのだが、最終日に無理矢理時間をこしらえて観ることにしたわけだ。昔感じた「何か」は、今も感じられるのだろうか、と。


 ところがリリイは、見事にその不安を蹴散らしてくれた。完膚なきまでにと言ってもいい。次の展開がわかっていても、いちいち同じ感動を与えてくれたわけだ。


 僕がはじめてリリイを観たのは、おそらく2002年ごろ。リアルタイムではなかった。映画の公開も終わっており、友人から借りたビデオか何かだったはず。その後、そのビデオをダビングし、何度も何度も観返し、文庫も買って読んだ(都合良く、その頃はニートだったはず)。そして、岩井俊二のファンとなる。その後、特別上映か何かが所沢の航空公園にあるシアターで行われると聞き、わざわざ出かけて劇場で観たこともある。そして帰省するタイミングでビデオはもういいだろうと、中古のDVDセットをアマゾンかヤフオクかで購入した(当時、もう新品は販売されていなかった)。


 まあ、この映画の何がどう良いのかは、語れば語るほどチープになりそうなので遠慮しておくが、今も昔も同じ物語で感動できるというのは、自分の軸の部分がブレていないということでもあって、嬉しい気がする。


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