レイモンド・チャンドラー著『ロング・グッバイ』を読んで

 村上春樹訳ははじめて読んだ。2007年、最初に村上春樹訳が出たときは単行本だったため購入を見合わせた記憶がある。それで、いつか文庫が出るだろうと、待っているうちに、この文庫化を待っていること自体忘れてしまっていたわけだ。で、1月の長い出張の前に、何か良い本はないかと思いを巡らした結果、この村上春樹訳の『ロング・グッバイ』を思い出し、都合の良いことに、文庫版が出ていたので、この長い長い小説を持って香港に出かけたわけだ。その後、出張中には読み終えることはできず、今になってやっと読了。


 この小説自体は、以前に何度か読んだ記憶があるが、ストーリーはほとんど覚えていなかった。というのも、やはりこの小説は、文体が持つパワーというのが最大の魅力であり、物語の展開というよりも、細かな言いまわしや世界観の方にインパクトがあったからだと思う。村上春樹が好きなら、この文体を気に入らないわけがない。『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』なんかは、この物語の影響を色濃く受けているように思える。村上春樹的には、よくフィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』を優れた小説として挙げているが、僕は正直、ギャツビーに関しては、そこまでの感銘を受けてはいない。というかあまり感情移入できないのである。が、その代わり、この『ロング・グッバイ』や、フィリップ・マーロウという主人公に関しては、すこぶる共感が持てる。手にとって、適当なページをめくって読むだけでも、充分満足が得られる小説と言えそうだ。


 で、読みながら思い出したのが、いつの頃か、浅野忠信主演で『ロング・グッバイ』のドラマをやっていたなぁということ。確かNHK。気にはなっていたが、結局通して観ることはなく、こんな気の利いた比喩のオンパレード小説を、日本を舞台としたドラマにリメイクしたらどんな風になるのかなと気にもなってきた。今度は、長い長い長い暇な時間ができたら、ドラマの方も観てみたいと思う。


◆土曜ドラマ「ロング・グッドバイ」|NHKオンライン