広島という街

 広島という土地は、「広島東洋カープ」という色があるためどうも好きになれない印象だった。要は敵地であると(同じような理由で大阪や福岡も別段興味のない街として挙げられるし、今となっては札幌や仙台もそこに含まれる)。しかし、実際に広島を観光してみるとその印象も少し変わった。


 まず、広島に到着して、広島きたー、と感じたことに、まさにこのカープの存在がある。広島駅のすぐ隣にマツダ・スタジアムがあり、新幹線の窓からも球場のスタンドが見えるくらいなので、この時点から「おお、広島じゃ!」というテンションになる。そして改札を抜けると、背番号が1か18かの違いがあれど、赤いシャツのMAEDAがうろうろしており(大人は1、キッズは18の割合が高い)、そこかしこにカープ応援グッズを売る即席売店が並んでいる。当日はホームでの阪神戦を控えていたので余計に活気があったのかもしれないが、このカープ一色の先制パンチを目の当たりにすると、カープ・ファンならずとも、否野球ファンならずとも「広島だなぁ、広島に来たなぁ。やっぱみんなカープ好きなんだなぁ」と、この街の一体感をひしと感じることだろう。もちろん、名古屋に行けばドラゴンズ・ファン、大阪に行けばタイガース・ファンが多数おり、フランチャイズとしての勢いみたいなものは感じるのだが、他県からの玄関口である駅から、その活気があるかとなると名古屋も大阪もノーだろう。ナゴヤドームなど、名駅からは地下鉄を乗り換えて随分郊外まで出ないといけないし、甲子園は大阪ではない。観光客の玄関口とスタジアムへの最寄り駅が同じであるという存在感は、訪れる者に良いインパクトを与えている。


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 その日の夜、広島に居る旧友と食事をした。帰りにタクシーに乗り込むと、すぐさま彼は運転手に「カープはどうじゃけん?」と訊き、「7-0で勝っとるじゃけん」と返ってきて、「よし! じゃけん」(注:独断と偏見による広島弁)と話がはずむ。しかし彼の本当の贔屓チームは昔っからジャイアンツだ。それでも広島で長年暮らしているとカープには愛着が沸くらしい。まあ不思議なことでもない、カープの話をしている広島人はみんな幸せそうなのだ。そこに僕が後部座席から「ドラゴンズは勝ってますか?」と訊くと「中日は、よう知らん」とオクターブ低い声で切り捨てられた。


 そして、広島風お好み焼きを食べた。予想以上に美味しく、次の昼も広島風お好み焼きを食べたくらいだった。もちろん「広島風お好み焼き」という名前のものは金沢でも食べられるし、コンビニだって売っている。しかしキャベツの蒸し加減と甘さ、そして薄いくせに歯ごたえのある生地、ごちゃごちゃ重ねてるわりには形の崩れない絶妙な焼き方など、完成度が違う。


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 1泊2日で広島に行ってきて、僕の中で大きく変わった価値観がある。日本って東京だけじゃないな、ということ。京都もそうだったが、広島もとても良い街だった。


 友人が言うには「広島は、福岡ほどの都会でもないが、かといって田舎過ぎるわけでもねえし、ちょうどええトコじゃけん」らしい。確かに、住むにはちょうど良い規模の都市かもしれない。また、平和公園や宮島など日本を代表する観光名所があり、客人を喜ばせるには充分なスポットも抱えている。


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 日本の人口の10%をも占める東京が文化の発信地であり、経済の中心地であることには何の疑いもない。だが、だからなんだというくらい、地方だって持ってるものがある。そういうパワーを広島じゅうの至るところからひしひしと感じ、それだったらまだまだ僕の知らないエンターテイメントが日本の各地に残っているはずだと気づかせてくれた。何もかもが東京に集中しているわけじゃないと。


 しかし同時にもこうも思った。じゃあ金沢はどうなのか。カープのような巨人ファンにも愛される地元スポーツ・チームがあるのか、お好み焼きや牡蠣のように抜群の知名度を誇る食があるのか、これぞ金沢と誰をも唸らせる固有の文化があるのか、玄関口となる金沢駅は観光客が降り立った瞬間に強烈なインパクトを与えられるのか、そして、そこに住む人々はあたたかいのか……。とまあ、こんな隣の芝生がどうとかみたいな愚痴を垂れてもしょうがないが、広島は羨んでいしまうほどの活気のある街だったということだ。