田中慎弥著『共喰い』を読んで

 芥川賞受賞直後のインタビューでの一風変わったパフォーマンスで注目を浴びた田中さん。僕はあまり良い印象はなかったのですが、その後しばらくして、どこかのテレビ番組でのインタビューを見て、印象が変わりました。「有名な作品は、土地と結びついているもの。そして地域がしっかり描かれているものが多い」というような意見を述べていたのです。なかなかするどい指摘だなと。例えば、村上春樹の『ノルウェイの森』であれば、早稲田界隈であったり、大塚駅周辺であったり、当時の僕の生活圏内が舞台だっただけに、その土地というものが作品を読むにあたっての強いスパイスとなりました。同じく『アフター・ダーク』や村上龍の『イン・ザ・ミソスープ』であれば、新宿。奥田英朗『サウスバウンド』は、中野などなど。もちろん実体験から具体的にイメージできる場所だけでなく、『ねじまき鳥クロニクル』の「ノモンハン」であったり、伊坂幸太郎作品全般の「仙台」という街など、自分が知らない土地や地域であっても、そこが明確になっているだけで、作品に引き込まれていく要素は強いような気がします。というより、田中さんのインタビューを見てそう思いました。そして、この哲学に強く共感できたので、すぐさま図書館で予約を入れたのです。


 で、実際に作品を読んでみて、一つの「川」が、物語の中心部にどんと据えてあることが読み取れます。個人的には、受賞作品「共喰い」よりも、2つ目の作品第三紀層の魚」の方が好みでしたが、こちらも「川」であったり「曽祖父の家」といった場所が、作品に深みを持たせる強い存在感を放っていました。この場所に思い入れを込めた作風というのは、とても読み甲斐があったように思えます(まあ、僕が気づかなところで、どの作家もやっていることなのかもしれませんが)。


 これまで読んできた作品も、場所に注目して読み返してみると、新しい発見があるかもしれないなと思いました。


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【内容情報】(「BOOK」データベースより)
欲望は、すべて水に還る。少年たちの愛の行方と血のいとなみ。川辺の町で起こる、逃げ場のない血と性の濃密な物語を描いた表題作と、死にゆく者と育ってゆく者が織りなす太古からの日々の営みを丁寧に描いた「第三紀層の魚」を収録。第146回(平成23年度下半期)芥川賞受賞作。

【目次】(「BOOK」データベースより)
共喰い/第三紀層の魚

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
田中慎弥(タナカシンヤ)
1972年山口県生まれ。山口県立下関中央工業高校卒業。2005年「冷たい水の羊」で第37回新潮新人賞受賞。2008年「蛹」により第34回川端康成文学賞を受賞、同年に「蛹」を収録した作品集『切れた鎖』で第21回三島由紀夫賞受賞。「共喰い」で第146回(平成23年度下半期)芥川龍之介賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)