僕が食べたうまいもん@一圓 (上石神井)
――餃子が好きなら、上石神井駅の近くの「一圓(いちえん)」というお店に行ってみればいいよと、友人は言った。「大きな餃子が出てくる」と。
東京に出た当初、僕はよく「今まで食べたものの中で一番うまいものは、金沢にある第七餃子だ」と、ことあるごとに豪語してたからだ。でも、「ちっ、甘いな」とも毒づいた。第七餃子と他の餃子を一緒にするなよ。そもそもホワイト餃子は、一般的な餃子とは形状も味も違う。サッカーとフットサルくらい違う。同じ土俵で考えないでほしいな、と思いつつも、気にはなったので、駅からすぐのところにあった一圓というお店に入ってみた。
わりかしオーソドックスな中華風の外観で、ラーメン、チャーハン、中華風の定食、そして餃子といった中華定食系のメニューをショウ・ウィンドウに並べている。だが、店内に入ると、逃げた犯人を追いかけてきた刑事が迷い込む港の倉庫のようなところに、イスとテーブルがコトンと置いてあるようなワイルドな内装。そしてこのワイルドさに助長されるかのように、どのメニューもジャンボ・サイズで迫力がある。確かに餃子はもちろん、どの料理も美味しかったのだが、僕に好印象を与えたのは、ヴォリュームの方。とにかく豪快な料理ばかりで、ガツガツたいらげると、それだけでホームランが打てそうな気分になるくらいだった。
僕がよく食べたのは、「餃子横置きご飯」。ま、読んで字のごとくだが、平たいライス皿に大盛りご飯が置いてあり、その横に何の遠慮もなく餃子が3個ないし5個ごろりと置いてあるというアジアン・チックなメニュー(スープと小鉢もあったかも)。600~780円。何でもそうだが、シンプルなものが一番美味いのだ。また、富士山のように盛られたチャーハンもお気に入りで、うめかつチャーハン(梅干しを頂点に鰹節をまぶしたチャーハン)、鳥辛チャーハンなどをよく食していた。680円。
1人でも足繁く通ったし、何人か友人が集まるとこれまた決まって一圓に足を運んだものだった。そして、チャーハンの分量などは、行く度に違っており、やたら多いこともあれば、ある日突然少な目になっており、皿の脇に「その分の補填」と言わんばかりのミニ・サラダが置かれていたりした。こういう行ってみて、注文してみてはじめてわかるというスリリングさも、僕を虜にさせた要素のひとつであることは間違いない。
一圓は中央線沿線に何店かあった。吉祥寺とか荻窪とか。それらのどのお店にも立ち寄ったことがあるが、上石神井のお店が良い意味で一番荒っぽいというか豪快だった。まだハタチそこそこの野郎にとっては、繊細な味なんかよりも、見た目の迫力や意味のない満腹感の方が、食における優先順位が高かいわけだ。そういう意味では、良い年齢(21歳くらい)、よい身分(ほぼフリーター)の時期に出逢えたお店なんだと思う。