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僕が食べたうまいもん@フクちゃん(早稲田)

 ――早稲田に「チョコレートとんかつ」という奇妙キテレツなとんかつを出す店があるらしい。


 どっかで見るか聞くかした噂だが、入学して間もなく、友人から西門付近にあるお店がそれだよと聞いた。「フクちゃん」というお店らしい。そして僕は一度行って以来、そのお店のファンとなり、授業もないのにわざわざ学校に来て、チョコとんだけ食べて帰ることもあったくらいだった。


 大学付近の「めし屋」のお手本のように、狭くてゴミゴミして、殺伐としているお店だ。壁には「フクちゃん日本一」とか「卒業して一番寂しいのはフクちゃんが食べられなくなること」みたいな、色褪せたり、油が染み付いたサークルの寄せ書きが、目一杯飾られている。良く言えば、歴史や伝統が感じられ、悪く言えば、単純にこきたない店ということになる。ともかく、店の外観や内装は問題ではない。問題は「チョコレートとんかつ」、通称「チョコとん」とは、どんなものか、の一点に尽きるだろう。


 想像力を掻き立てられる料理名だが、何てことはない。とんかつの衣と肉の間に板チョコをインサートして、あとは通常のとんかつと同じく油で揚げたもの。ただそれだけ。だから見た目は何の変哲もない、100%普通のとんかつ。ソースをかけて、キャベツもしくは真っ白なご飯と一緒に口に運ぶわけだ。そして味の方も、そのまんま。市販のソースと香ばしい衣とジューシーな肉と並行して、ちょっとビターなチョコの味がする。そのまま過ぎて拍子抜けするくらい単純な足し算の味である。化学反応的であったり奇跡的な掛け算の味はしない。小学生でもできる簡単な足し算。


 もちろんこの組み合わせを「気持ち悪い」と感じる人も少ないない。ただ、スイカに塩をかけるのと同じように、「甘み×塩分」という、お互いのセールス・ポイントをを引き立てる方程式で成り立っているわけだ。だからか別段驚くような新鮮味もない。でもこの「そのまんまだよ!」という一人ツッコミを入れることも、ある意味快感で、僕は足繁く通っていた。


 ちなみに、この店の親父は肉が食えないらしい。味見などもほとんどせずにメニューを拵えているそうな。そういうバック・ボーンもあるのかないのか定かではないが、「チョコレートとんかつ」以外には「バナナ・メンチかつ」や「レーズン・メンチかつ」など、思いつきで掲げているだけのような斬新なメニューがあった。


 確かとんかつ系が700円で、メンチ系が600円だったような値段設定なので、基本はチョコ・メンチとか納豆メンチとか(大根)おろしメンチを食べていた。そして「今日はちょっと贅沢しようかな」というときには「チョコとん」を満を持して注文するといった按配だ。そして、大学の近所にあるお店が例外なくそうであるように、安くてヴォリューム満点で、とても満足して家路についた記憶が今でも難なく思い出せる。


 しかし、残念ながら2004年の2月に閉店。閉店の日は、真冬だったが、1時間くらい行列に並んで食事をした。


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 そんなフクちゃんでの思い出をひとつ。一度、レジ横の入り口付近の1人で黙々ととんかつを食べていたときだ。誰かが食事を終えて奥の方から出てきて、僕の隣で食べていた学生に、「おう、なんだここで飯食ってたのか」と言ったかと思いきや、「飯くらいおごってやるよ」と言って、財布を取り出したのだ。口調の感じからすると彼らはサークルの先輩と後輩の間柄だろう。後輩は友だちと食事をしており、先輩は「2人分でいいか?」と言って、その見ず知らずの友だちの分もおごって帰っていた。先輩が店を出ていったあと、後輩は「ラッキーだったな」と友人に言って、美味そうに残りのとんかつを食いはじめた。僕はそのやり取りを、先輩と後輩に挟まれるような位置で黙って聞きながら、チョコの入ったとんかつを口にしていた。


 最初、その先輩の態度を「なんでぇ、スカした真似をしやがって」と江戸っ子風に小馬鹿にしていたわけだが、今でもこのやり取りを覚えているということは、どこかで「カッコイイな」と感じている自分がいるのだろう。しかしいまだに「飯くらいおごってやるよ」と言って、後輩に飯をおごってやったことは一度もない。


◆フクちゃん閉店、お疲れさまでした - Not Found