僕が働いた場所@バンド・スタジオ2(1998~2001年)

 女の逃げ口上の話。


 予約をしたが何の連絡もなしに練習には来なかったグループがあった。こういう場合は「当日キャンセル」という扱いになり、通常料金全額を支払ってもらうことになる。で、代表者の電話番号は聞いているので、電話をして催促しなければならない。「お金は払ってください」と。前日あたりから電話をしているのだが、連絡がつかず引き継ぎとして残っており、僕が電話することになった。代表者はどこかの学生の女の子のようだった。


 そして、その日何度か電話すると、恐る恐る誰かが出た。「○○さんですか?」と僕が訊くと、いや、その友達だと電話の主は言う。さっきからずっと電話が鳴っているのでとってみたと。僕は電話している旨をその友人だという女の子に説明する。何の連絡もなしに予約をキャンセルしたから、お金は払ってほしいと。おそらく代表者本人はすぐそこにいるのだろう。着信の電話番号が知らない番号だから取らずいたが、あまりにしつこいからとりあえず友達が出て様子を伺ってみるというようななりゆきなのだ。


 僕は金を払えよと言い、電話口ではわたしは友達だからわからないと言い、僕はじゃあ友達のお前が払えよと言い、向こうはそんなのは困るというような押し問答が繰り返された。僕も相手がか弱そうな女の子だったので強気で催促した。こういうときは、相手が、じゃあわかりました、というまで我慢強く粘らなければいけない。


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 しかし、言葉に詰まった彼女はしばしの沈黙のあと、出し抜けに「ちょっと今、○○はお風呂入ってるんで、あとからかけ直していいですか」と言い、「え? あ……、そうなんですか。スイマセン、じゃあまたあとで。ススイマセン」と、僕はあっさり電話を切ってしまった。


 僕はそのときお風呂に入っている女の子を想像し、またその裸の女の子に対してお金を催促し、そしてその友達に「アンタ、もう帰りなさいよ!」と言われたような気分になったのだ、一瞬のうちに。だから逃げるように電話を切った。しかし切った後に、いや別に風呂入ってたって関係ないよな、しかも電話だから覗いてるわけでもないし。というか風呂入ってるってこと自体嘘だよな、ホントに風呂入ってるなら最初に言うだろうし、今はまだお昼の2時だし……。と諸々してやられたと反省せざるをえなかった。


 もちろん、その後電話はかかってこないし、かけても出ない。キャンセル分も未納のまま処理された。