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僕が働いた場所@バンド・スタジオ1(1998~2001年)

 石神井に引っ越してから、しばらくはバイトもせずにバンド活動だけをしていたが、自分が利用していた吉祥寺のバンド練習スタジオでアルバイトを募集していたので、そこで働くことにした。バンドの練習スタジオでの仕事なんてピンとこないだろうから簡単に説明しておく。


 まず、バンドの練習をしたいという客から電話がかかってくる。受話器を取り、客から練習をしたい日にちと何時から何時間利用するかの予約を受ける。このとき受話器を左手に持っておかないと、うまくメモが取れないので注意が必要だ。そして予約の日、予約の時間に、そのバンドが来たら練習部屋に案内するし、来なかったら代表者に電話して早く来いよと催促する。このときの受話器はどちらの手でも構わない。で、終了の時間が来たら、次予約してるバンドのために部屋を空けなければいけないので、片付けの手伝いをする。部屋の中に入るとき、内では爆音で練習しているため、部屋の電気をパチパチと消したり点けたりして、「もう時間だから練習やめろよ。今から扉開けるから演奏やめて静かにしとけよな」というサインを送る。まあ簡単にいえばカラオケのシステムに似ているだろう。時間と場所(部屋)を貸すという商売である。


 その他には、サービスのコーヒーを沸かしたり、休憩室の灰皿の掃除をしたりといった仕事があり、また当然楽器や機材が調子悪くなったときにメンテナンスをしないといけないが、基本的にはバンドの入れ替えの前後10分くらいがメインの作業で、あとの時間はぼ~っとテレビを見てるか、お気に入りのCDを流して聴いているか、同僚がいれば2人で喋ってるかといった過ごし方をしていた。これまたとても楽な仕事だった。ライブの日には優先的に休みがもらえるし、ライブ翌日も打ち上げで朝まで飲んでる前提なので無条件で連休となる。また、売上のこともまったく何も言われなかったと記憶している。とにかくトラブルさえなければ問題ないという具合に。そしてそこでも僕はいかにしてサボってやるかということと、いかにして楽してやるかということしか考えてなかったのである。


 僕がメインで働いていたのは、雑居ビルの4階にあるスタジオだった。エレベーターを降りてすぐ目の前にある入り口の扉は、防音対策のため固く重いものでつくられているので、何も知らない人はとても入りにくいお店となるだろう。まわりの壁にも「当方ヴォーカル、ギタリスト募集!」「ベーシスト急募!」といった、ちっともお願いする気持ちの感じられない乱暴で攻撃的なチラシが貼り巡らされている。ちょっと「ワル」なのがカッコイイみたいな人たちが棲みつく場所だから致し方ない。この扉を開けたら、悪魔や獣やKISSのようの格好をした人たちが飛び出てきそうな雰囲気満載なのだ。カラオケのようにウェルカムで、ランランなムードは皆目ない。


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 当然のことながら、ここで知り合うのは音楽をやってる人間ばかりで、仲良くなるのは同世代の人間ばかりである。基本的に客もスタッフも20歳代前半の人間が大半を占める。僕はろくすっぽ大学にも行ってなかったので、バンドメンバー以外では、このバイト先ではじめて多くの東京の友人ができた。それが僕にとって、朝採れたばかりのレタスのようにとても新鮮で、修学旅行の夜のように大きな刺激だった。


 そして、ここに集まってくる男女全員が自分には才能があり、自分たちのバンドは必ずや成功する、それが明日なのか来年なのかはさておき、間違いのない未来だと確信していた。何故なら僕らは、ついこの前成人式を終えたばかりで、有り余る時間を利用し、そして東京という大都会で自由に、そして(程よく)真剣に音楽と向き合っているからだ。夜になれば空にきれいなが浮かんでくるのと同じように、この真っ暗で退屈な空間のど真ん中に光り輝く俺らの出番が来ると信じて疑わない。しかし、月には満ち欠けがあり、そしてなにより不幸なことに、僕らが見ている月というもののほとんどが、満ちることがないまま消えていってしまうのだということに気づくには、個人差はあれどもう少し時間が必要だった。


 2~3年ここに勤めた。吉祥寺に系列店が3店舗あり、それらのお店をよく行き来していた。また備品を買うためにも吉祥寺の街をよく出歩いた。とにかくこの2~3年はずっと吉祥寺で時間を過ごした。吉祥寺は僕の大好きな街のひとつである。


 その後、バンドというもの自体を辞めることにしたので、必然的にこのバイトも辞めることにし、ちょうど店長が変わったとかなんとかで人がバタバタ辞めていた時期なので、その流れに便乗して、するっと辞めた。逃げるように辞めた気もするが、今でもこの職場の人とは連絡があったりする。ありがたいことに。