『輪るピングドラム』を読んで

 2011年、深夜のアニメを通して観て、なかなか印象に残った作品。ただ、最終的に何がどうなったのかよくわからないままエンディングをむかえた感があり、そういう意味からも、妙に尾を引くように気になり続けていた。小説は上中下、三巻になっており、香港に来て、何もすることがない時分に電子書籍で購入した。分量的にはさほどでもないのだが、もたもたと読み進め、最近読了。


 監督・脚本は幾原邦彦。高校生の双子の兄と病弱な妹1人という三兄妹を中心に話が展開する。のっけから妹が死んでしまうのだが、不思議な現象が起こりコロッと生き返り、このまま妹が元気でいられるために必要な「ピングドラム」を手に入れなければいけないというストーリー。そもそも「ピングドラム」が何なのかは、登場人物も視聴者も誰にもわからない設定で、観てる側もゴールがわからないまま成り行きを見守ることになる。とはいえ、次々登場する個性的なキャラクターや、三兄妹に付きまとう可愛らしいペンギンなど、「わけがわからないから、とにかく観続けるしかない」という状態に押し込まれるわけである。また、ポップなイラストとは裏腹に、地下鉄サリン事件をモチーフにしたような演出が多々見られ、暗喩的にヘヴィなテーマが散りばめられている。個人的には、ブラックなうる星やつらといった印象だった。ちなみに宮沢賢治銀河鉄道の夜からの引用も少なくないそうだ。


 小説に関していえば、ライトノベルに属するのかもしれない。一人称と三人称が入り交じっていて、読みづらい部分もあったが、アニメを観ている分、世界観は把握できた。


 で、この物語の解釈としては、いくつかのサイトを読み込まないと把握できない事柄がたくさんあった。そもそもタイトルにもなっている「ピングドラム」とは何だったのか、突如湧いてきたペンギンは何なのか、など、アニメや小説の中では、全部は語られていない事柄が多々ある(というか、ほとんど語られていない)。観てる側の解釈に委ねる部分が非常に大きい作風なのだ。そういう意味では一般受けしないだろうし、深夜アニメっぽい作品だったなと思える。ハマる人はハマるだろうし、途中で厭になる人は見切りが早いだろう。


 ともあれ、他人に説明するのが非常に難しい物語。以下の公式サイトを観て、気になる人はぜひアニメ→小説の順番で堪能してみてください。


◆輪るピングドラム


【内容情報】(「BOOK」データベースより)
少女革命ウテナ」「美少女戦士セーラームーン」シリーズの幾原邦彦監督、12年ぶりのオリジナルTVアニメ原作小説第1弾。

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
幾原邦彦(イクハラクニヒコ)
12月21日生まれ。アニメーション監督。東映動画(現・東映アニメーション)所属時代の1993年、『劇場版美少女戦士セーラームーンR』で監督デビュー。独立後の1997年に原案・監督を務めた『少女革命ウテナ』を発表し、大きな話題に。アニメの他、小説や漫画原作など活動は多岐にわたる

高橋慶(タカハシケイ)
1980年10月15日、東京都生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)