「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観て

 2000年日本公開。デンマークの映画とか。デンマークの映画とか言われても、今ひとつピンとこないし、正直、デンマークでも映画って撮ってたんだと思ったくらい。でも、映像とか人間味からは、北欧風の物寂しさが感じられて良かった。北欧に行ったことないから、アクマで個人的なイメージだけの感想だけど。第53回カンヌ国際映画祭では最高位のパルム・ドールを受賞。ビョークは主演女優賞を獲得、またレディオヘッドトム・ヨークも参加した『I've seen it all』は話題を呼び、ゴールデングローブ賞およびアカデミー賞の歌曲部門にノミネートされた。次第に視力を失っていく主人公セルマが、視力だけでなく仕事も失い、友人に裏切られお金を盗まれ、それでも最愛の息子を守り続けようとするストーリー。この喪失の連続の中で、セルマの妄想をミュージカルで描いている。


 2000年というと、僕はビョークを聴きはじめたくらいの時期で、動物の本能が絞り出す唸りのような彼女の力強い歌声に魅了され、聴き入っていた。また、アンプラグド・ライブでの「Violently Happy」の、すべてのプレイヤーが神がかっているパフォーマンスも僕にとって強烈なインパクトを残し、以来ビョークのい大ファンになったのもこの頃だった。



BJÖRK - Violently Happy [Live@Unplugged MTV 1994] HQ


 ところが、この映画は観ていなかった。理由はすこぶるシンプルかつ偏ったもので、急に歌ったり踊ったりするミュージカル要素が入り交じった映画だということを毛嫌いしていたから。が、さすがに当時から10年以上も経ち、ミュージカルがどうこうと、くだらないより好みをするような年齢でもなくなったので、WOWWOWで視聴することにした。というか、たまたまWOWWOWの放送リストで見つけたので、何日も前から楽しみに待って、満を持してチャンネルを合わせたわけだ。


 この映画の評価として、とにかく「後味の悪さ」「鬱」というワードを目にする。よくあるまとめサイトで必ず上位に出てくる。だが、個人的には、そこまで強くロウな気分にはならなかった。おそらく要所要所で登場するミュージカル部分でどこか滑稽な印象を受けてしまい、感情移入しきれない自分が居たのだと思う。おっと、ここで踊りだすか、みたいに。暗の本編と、明を仄めかす主人公の「妄想」としてのミュージカル・パートが綺麗に分離されてしまい、「暗」に染まりきらなかった気もする。もしくは、(認めたくないが)暗い物語に対しての免疫がつくだけ自分が歳を取ってしまったのかもしれない。これくらいの不幸な人間は、まあ確かに居るだろうねと。まあそうじゃなきゃ良いが。だからだろうか、ラストシーンにて、一縷の希望が見えた部分も不明瞭なままにし、救い様のない閉塞感のまま終わっても良かったんじゃないかと思ったくらいだ。


 ちなみに当時聞いた記憶があるのだが、ビョークは、このセルマという主人公の役作りのために2年ほどの期間を費やし、その後セルマからビョークに戻るのにも同じくらいの時間がかかったという話を聞いたことがある(真意は定かではない)。確かにバカ正直でメガネがキュートなセルマという女性は、アヴァンギャルドビョークとは、まったく正反対だからね。だからなのか、僕はこういう不器用な生き方をする人間は好きじゃないのだけど、セルマという女性には強く魅力を感じてしまった。彼女に想いを寄せるジェフにも共感でき、つらい気持ちになった。ともかく映画としての完成度はとても高い。カメラマークも僕の好きなタイプ。鬱な気分になるか否かは、わからないが、観ておいて損はないと思う。


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【ストーリー】
セルマ(ビョーク)は女手ひとつで息子を育てながら工場で働いている。彼女を母のように見守る年上の親友キャシー(カトリーヌ・ドヌーブ)、何かにつけ息子の面倒を観てくれる隣人ビル(デビット・モース)夫妻、セルマに静かに思いを寄せるジェフ(ピーター・ストーメア)。様々な愛に支えられながらもセルマには誰にも言えない悲しい秘密があった。病のため視力を失いつつあり、手術を受けない限り息子も同じ運命を辿るのだ。愛する息子に手術を受けさせたいと懸命に働くセルマ。しかしある日、大事な手術代が盗まれ、運命は思いもかけないフィナーレへ彼女を導いていく・・・。
【解説】
衝撃の感動は世紀を越え、全世界へ! 日本中が涙した、魂を揺さぶる感動作! セルマは祈る、息子ジーンのために。