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香港にやってきた@物乞い

note HongKong

 僕がいるのは尖沙咀(チムサーチョイ)という香港の一等地。東京で言えば、銀座のようなエリアである。思いつく限りのブランド店が立ち並び、ペニンシュラホテルがそびえ立ち、港に出れば世界中の歓楽を集約したマカオに行く船も出ている。で、そのエリアにいくつもある地下鉄に通じる地下道には、何人もの物乞いがいる。座って、金を恵んでくれと頭を下げて、神に懺悔をするようにお願いしている。そのうち地面と一体化するのではないかというくらいに深々と頭を下げている。黙って無表情な者もいれば、何かブツブツ言っている者もいる。汚れた厚手の服を着て、浅黒い顔している分、哀れな白髪が目立つ。目の前に裏返した帽子のようなものを備え、そこには興味本位で小銭が投げられる。まあ、日本で言うところのホームレスだろう。新宿などで、厭というほど見かける。


 ちなみに、今、あなたがイメージした物乞い、ホームレスというのは男性だろうか、女性だろうか。まあ間違いなく男性だろう。しかし、香港でここにいる物乞いはすべて女性である。


 なんで女なんだ、と常々不思議に思っていたので、一番日本語が堪能で日本好きな現地スタッフに質問してみた。なぜ香港の物乞いは女性ばかりなのかと。すると彼は質問の意味がわからないような顔をした。ので、日本のホームレスは全部男だと説明すると、一転、「え~、なんで男?」と蜂にでも刺されたように驚いていた。そして続けてこうも言った、「男だったら、仕事すればいいですよね?」。ごもっとも。


 ちなみに彼の説明による、香港の物乞い事情は次の通り。物乞いの女はおそらく中国人だと。というのも香港でも、いわゆる生活保護のような制度があり、国が最低限の生活を保障してくれている。それに加えて、男なら働き口くらい探せばある。ので、国の保障を受けられない、香港以外の国籍の女がああなると。まあおそらく、元売春婦なんだろう。


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 そう言われると、いろいろ考えさせられることはある。日本のホームレスって、単に住所不定なだけで、のらりくらりと生活はできている。でも香港の場合は、頭を下げて見知らぬ他人に必死に金を乞っている。これは国の違いというより、男女の違いな気もする。男はプライドがあるのか他人に頭を下げてまで、物だの金だのもらいたくない。その分、野生の本能がよみがえるのか、落ちてるものを拾ったり売ったりして、それなりに自力で生きていくことはできる。一方で、女の場合は、自力ではなく他力になってしまうのかもしれない。もし彼女らが本当に元売春婦であるのなら、醜態くらいいくらでも曝け出し、金を手に入れるだろう。そもそもそうやって生活してきたのだ。否、そうやってしか生活できないのだ。だから、自分でなんとかしようとするのではなく、1日中誰かに金を媚びるしかない。


 また、日本のホームレスは、なんだかんだで、気軽に生活できているような気がする。無人島で生活をする芸能人のように、ある種の開放感を満喫しているように見えなくもない。でも香港の地べたに這いつくばっている女達の顔には、なんの光もない。いくらかの小銭をかき集めたところで何になるというような絶望感がただよっている。あれは哀れみを買うための演技なのだろうか。いくらなんでもそこまでの余裕はない気もするが。


 彼女たちは、何を失い、ああなってしまったのか。もしくは、元々何も手にしていない女だったのだろうか。そして、この先、どこにたどり着くのだろうか。香港の超一等地で座り込む女たちを見て、僕は答えのない、そして誰も目を向けようとはしない闇を見てしまった気がする。