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伊集院静『逆風に立つ』を読んで

 昨日、東京ドームでの引退セレモニー&国民栄誉賞授与式があった松井秀喜氏。もちろん、郷土のスターということあって長く応援してるし、注目もしているので、嬉しいニュースだと思いました(それもあって、この本を買ったのです)。


 しかし、その松井の語る言葉というものには、正直物足りなさを感じている自分もいます。もっと極端に言うと、おもしろくないと。他のアスリートと比べると、思わずメモをとってしまうようなセリフが極端に少ない気がします。これだけの実績、注目度のわりには。


 それを顕著に感じたのが、数年前に松井秀喜ミュージアムに行って、記念に何かグッズでも買って帰ろうかと思ったときです。売店には、多くのオリジナル・グッズが並べられ、バットのキーホルダーとかタオルに「松井の一言」が書かれているわけですが、どれもパッとしない。「がんばろう」とか「根性」みたいなことが書かれており、別にこういうのって松井じゃなくてもいいじゃんと思ってしまい、なかなか買うものを決められなかった覚えがあります。


 で、この本を読んで、やはり同じよな淡白さを感じました。どうもすべてにおいて薄味であると。表面だけさらっと撫でているだけのルポな気がするのです。また超大御所作家さんに失礼かもしれませんが、著者の私情が入り過ぎている感もあり、描かれている物語の中に読者の入り込む余地がないようにも感じました。


 で、諸々考えてみるとやっぱり松井って、文句のつけようのない超優等生なんでしょうね。アクがない。だから、コメントや松井の言動に対してもエグみ、鋭さが感じられないのだと思います。ので、松井を語るエピソードも美談一辺倒なステレオタイプなものになり、どうも噛みごたえがない。正直もっと何かあるだろうという気がしてならないのですが、これ以外のものはあまり見受けられません。よくよく比較されるイチローのような哲学や高校の後輩本田圭佑のような宇宙発言などどこを掘り返しても出てこない。せいぜい出てくるのは下ネタくらいです。先日北国新聞に、石川県の人に向けたメッセージが寄せられていましたが、これも超模範的な郷土愛をくすぐるもの。僕はたいていこういった記事をスクラップするのですが、どうも読んでいて恥ずかしくなったくらいで、わざわざ切り抜くことはしませんでした。でも、きっとこれを読んで元気づいた人は多いはずです。


 この本の中に書かれていたと思いますが、松井秀喜という人間は、完全にジャイアンツの四番バッター、スター松井秀喜を演じていたと、当時のチームメイトは言うそうです。誰もがこうあってほしいという像を忠実に再現していたことが、彼の人気の秘密であり、一方で物足りなさの要因なのかなと思いました。彼の本心というものは、まだどこにも語られてはいないような気がします。思えば、甲子園の5打席連続四球に関しても、松井自身の言葉というものもはほとんど出ていません。まわりがあれこれと着色し、勝手に伝説化しただけのような気がします。そして、今回国民栄誉賞という、それこそうっかり立ちションベンもできなくなる賞が授与されたということで、松井の本心というものは、永久に封印されてしまうことでしょう。


 ただ、ひとつ言えることは、別に個性的な言葉やエピソードなんていらないのかなと。その存在感だけで充分なこともあるわけです。松井秀喜という人間は、そういったタイプなのでしょう。とにかくおめでとうございます。


【送料無料】逆風に立つ [ 伊集院静 ]

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価格:1,050円(税込、送料込)

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
伊集院静が描く、松井秀喜の心の軌跡。

【目次】(「BOOK」データベースより)
逆風に立つ/素晴らしい春の訪れ/A STAR,MODESTY INCLUDED/人の悪口は言いませんー父との約束/父と息子のキャッチボール母の洗ったユニホーム/挑戦者たち 野茂 イチロー/「当たり前のことをしただけです」/「命を懸けて戦ってきます」/戦後、日本がアメリカに送り出すもっとも美しい日本人/まずグラウンド・ゼロに行こう〔ほか〕

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
伊集院静(イジュウインシズカ)
1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。81年短編小説「皐月」でデビュー。91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)