サクラ咲く、マイナー校を志望する理由

 3月14日、金沢の公立高校の合格発表がありました。で、以前、部活を教えていたときの1人の生徒の話をします。


 僕にとって彼は元々実家の近所にいる小学生であって、暇なときに捕まると、そのへんでキャッチボールをしたりと適当に遊ぶという間柄でした。活発な性格の男の子だったので、付き合いやすかったのです。で、彼が中学に入り、何故かバレー部に入部したと聞きました。でもまあ部活はじめれば忙しくて関わることもなくなるだろうとのことで、僕は「ふむ」くらいしか思いませんでした。が、それがどういうわけか、僕がその部活に顔を出すようになって、指導者と選手という間柄になります。まだ幼い彼は、不安ばかりの部活動で知り合いが1人増えたということで、僕に必要以上に頼ってきますが、僕は彼だけを特別扱いするわけにもいかない。個人的な付き合いから、集団でのヒエラルキーの上下に立場が移ったことで、僕は少なからず違和感を感じていました。距離感、バランスが取りづらかったのを覚えています。


 彼は、チームで諸刃の剣のような存在でした。彼は同学年の中では背も高く、運動神経も非常に良い。そして、そうした生徒によくあるように、真剣に練習をしないタイプでした。泥臭い努力をしなくても同学年の平均以上のことが容易にできてしまうのです。また、それに伴い非常に気分屋で、自分の調子が悪いとまわりも巻き込むような不機嫌な顔になり(おそらく他人のせいにしている)、そして周囲もそれを感じ取ってチーム全体が暗くなってしまいます。そして身体の成長に能力が追いついていないのか、もしくは単純にストレッチや準備運動をまじめに取り組まないからかわかりませんが、怪我も多かった。つまり僕にとっては、非常に手の焼ける生徒だったのです。1年次2年次には学年キャプテンをやってましたが、最終的にはキャプテンにはならなかったようです。もし僕が続けていても、そうしたと思います。3年になっても、彼が原因でもめてるという話を何度か聞きました。まあそんなムードメーカーであり、トラブルメーカーだったのです。


 で、そんな彼が高校受験で、僕と同じ学校を志望しているのだと聞きました。「……ふむ」と思いました。


 というのも、僕の中学の学区というのはとても特殊で、金沢で1番、2番、3番の国公立の高校(この順番は僕の主観的なもの)が、よりによってと言わんばかりにひしめき合っているエリアなのです。その影響か、学力も高く、地価も高く、品のある地域として見られることが多い。そして4番を飛ばして5番目の学校が少しだけ離れたところにあります。ので、ほとんどの生徒は3番か5番の学校を目指し、たいてい5番目の学校に落ち着きます。僕の母校である4番目の学校は遠いので、この学校を受験すると言うと、「なんで、ざわざわ?」という顔をされるくらいアウトローな存在なのです。彼はその学校を受験するのだとか。僕も自分の母校ながら、他人事なので「なんで、ざわざわ?」と思いました。


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 自分で言うのもなんですが、少なからず僕の影響もあったのかなと思ってしまいました。彼はそれなりに僕をコーチとしても信頼してくれたようで、母親づたいにそんなような話はよく聞いています。というか、それ以外に、わざわざあんな高校を受験する理由なんてないでしょう。僕の中学にとって、それくらい忘れられた選択肢なのです。


 そして、合格発表の日、どうなったかなと思っていた頃に、彼から着信がありました。もうその時点ですべてがわかります。電話越しでは、彼が小学生の頃、一緒に遊んでいたときのような感情むき出しのテンションで「むっちゃ、うれしい!」を連呼してました。そういえば、元々こういう親しい間柄だったなと、少し懐かしい気持ちになりました。長い年月と苦労をかけて生まれた後輩、という感情が湧いています。おめでとう。


◆[時事]ON、KK、野茂・イチロー - Not Found (2009.09/26)