カプセルホテル

 はじめてカプセルホテルというものに泊まりました。


 というのも、下北沢で友人と別れ、時間は深夜の3時。彼らは右手を上げて、タクシーという乗り物に乗って、あっという間に消えていなくなってしまいました。僕は、もう漫画喫茶に朝まで居ればいいやと思ったのですが、なんと下北の漫画喫茶は身分証明書がないと利用させてもらえないようです。普段免許証は車の中に置いているので、じゃ、いいっスと行って外に出ました。そもそも込み入ったトラブルを避けるために身分書の提示をルールづけているわけなので、真夜中に酔っ払いがいちゃもんつけたくらいじゃ、どうもならんだろうと思ったのですぐ撤退しました。


 断られて外に出ると、さっきよりかは2度くらい気温が下がったように感じました。しかし、そこは大都会東京。5分ほどうろうろしていたら、大きな看板に「カプセルホテルすぐそこ→」という文字が目に入ったので、矢印の方向に歩いてみると、大きなホテルがありました。言われてみれば、学生時代に普通に下北遊びにきてたときも「こんなトコにカプセルホテルあるけど、誰が泊まるんだよ。下北なんて遊びに来るトコじゃん」みたいに、斜め上から見下していたことを思い出しました。そんなホテルに救われた思いをしながら、今から泊まろうとしているわけです。


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 受付ロビーや階段などは普通のホテルとたいして変わりません。3,500円のカプセル個室と、1,800円くらいの雑魚寝スペースがあると言われますが、個室を選びました。さすがにこの年になって雑魚寝は厭だなと。そして受付で渡された鍵で、指定のロッカーを開け、自分の着ていたものやカバンを押しこみ、パジャマに着替えます。この辺りは、どちらかというと、スーパー銭湯みたいな雰囲気、システムです。で、浴場も利用できるというので行ってみました。3時という時間にも関わらず、2~3人の男が背中を流しており、別段、野蛮な風貌でもなく、落ちぶれた表情でもない、ごくごく一般的なおっさんでした。この人達は何のためにこんな時間に風呂に入ることになったのだろうと思いをめぐらせますが想像もつきません。おそらく仕事で東京に来ているのでしょうが、ホテル代すら出ない会社だということでしょうか。安く済ませるためにカプセルホテルにしたと考えるのが普通でしょう。ともかく、浴室は思った以上にしっかりしており、都内の柔道部が合宿に来てもトラブルが起きないレベルの広さでした。その後、カプセルのフロアに上がります。


 カプセルは1フロアに14室くらいでしょうか。下段に7室、上段に7室。誰かが寝ているカプセルはカーテンが閉められており、そうでないところはカーテンが開けられ、中のくすんだオレンジの蛍光灯の光とともに枕やシーツが見えています。もちろん下段から埋まるようで、下半分はすべてカーテンが閉じられていました。僕はそんな個室たちの上に設けられた上段カプセルに手摺を使って捻り込むように入り込みます。酔っていたこともありますが、足腰の弱い人は登り降りできないんじゃないかという窮屈な導線です。しかしカプセルの中は充分に広く、また適度な清潔感もありました。左右の壁は頑丈そうですが、閉塞感はなく、気温も快適。心地よく眠ることができました。総合的に満足でした、思いの外。といっても3,500円も払っているわけなので、それ相応なのかもしれません。


 でも、カプセルホテルってもの自体が東京を象徴してるなと思いました。密集してるけど、みんな他人で、何者かもわからない。というか、知りたくもないし、関わらないほうが賢明に思えてしまう。自分のスペースは心地よいけど、全体としてここは何なんだろう、何を生み出しているのだろう、わからない、みたいな。漫画喫茶で一晩過ごすより、よっぽど充実の時間だったと思います。