鉄工所にて待つ@河北潟一周駅伝

 2012年、年が明けてまず楽しみにしていた行事のひとつに、この河北潟駅伝がありました。11月に行われる駅伝、またみんなで襷を繋いでゴールしたいなと。しかし、結果は3.3キロの区間を走りタイムは15分57秒。ペースにすると1キロあたり4分50秒で、去年と比べても20秒も遅くなっているし、そもそも3月に10キロ50分を達成したことを考えると、10キロを走るときに目標とすべきようなペースで、やっと3キロを走った感じです。区間の個人順位も17チーム中16位で、15位の選手にも1分30秒も遅れてしまいました。こんな結果なので走ることに関しては何も語ることがありません。ので中継所で待っていたときの様子でも描いてみます。


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 第3部の第2走者が待機するA中継地点は、どこかの町の鉄工所でした。「2走はアタリですよ。中継所には暖房もあるしトイレもあるし屋根もあります。他の場所ではテントだけって中継所もあるみたいですからね」と、去年も2走だったチームメイトがバスの中で教えてくれました。


 バスが到着したときは、まだ鉄工所は閉まっていましたが、2~3分すると軽自動車がぶぅぅんとやってきて、紺色の作業着を着た親父が手際よくシャッターをガラガラと開けてくれました。そして、慣れているのか、大きなストーブを2台点火し、簡易イスをそのまわりにいくつか並べ、もう昨日から準備してあったみたいに、あっという間にその一角を暖かい待機場所にしてくれました。勢い余って、おいしいシチューでも出てくるんじゃないかと思ったくらいの持て成し様でした。途中「今日は休みなのに、このためにわざわざ出てきたんですか?」と訊いてみましたが、そうだとも違うとも受け取れるような曖昧な返事をして、へへへと親父は笑いました。「鉄工所」という無骨なイメージとは違い、伝統工芸、金箔や漆の職人でもやってそうな繊細で無口で、小柄な親父さんでした。


 ひと通りランナーたちの居場所をこしらえると、彼は休憩所のような場所のイスに腰掛けてしばらくテレビを眺め、やがてよっこらしょと立ち上がってぐうっと背伸びをすると、くわえタバコで仕事をはじめました。鉄工所の奥の方で、鉄パイプみたいなものを叩いたりガスバーナーみたいなもので炙ったりしています。どうやら1人で作業をしているようなので、やはり、場所を提供するためだけに出勤してきて、ついでに仕事をしているのでしょう。


 鉄工所というのは、独特な雰囲気があります。特に、動いていない巨大な機械たちの間を歩いてみると、大きな森の中に入り込んだような錯覚をも覚えます。使い古され、サビや油がこびりついた機械には、森の奥でひっそりと暮らす大樹を思わせるのです。だから傍から見れば薄汚れて汚い機械なのかもしれませんが、近くによって触ってみたくなるのです。こうして見ると、「木は生きている」と言うように、静まり返った鉄の塊というものにも生命力があるようにも思えてきます。それは、パソコンや携帯電話からは絶対に感じ得ないような人間味のある暖かさです。否、それは長年、本当に長い年月人間に使われることによって宿る霊気なのかもしれません。だから1年や2年でコロコロと機種変えする機械からは感じられないぬくもりで、大量生産大量消費の世の中で僕らが忘れてしまっている何かに触れられたような気がしました。


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 外は大粒の雨、3連休の初日である勤労感謝の日の朝8時過ぎの出来事です。朝寝坊をするには絶好のコンディションとも言える環境下で、ある者は走る準備をし、ある者はそれに付き合い、そしてそこに静かな生命力があったというお話でした。