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世の中で一番汚い場所を見るバイト

 バイト生活をしている時分、ある知り合いと話をしていて、こんな話題になった。


 その子は「わたしが居酒屋さんでバイトしてる理由は、居酒屋さんって場所が世の中でもっとも醜い場所、汚い場所だから」だとか。なんだ、変なことを言う奴だなと思っていたのだが、「せっかく東京に出てきてるんだから、もっとも汚い場所ってのを見ておくことは、きっとたいせつ」とか言うわけだ。ちなみに彼女は当時19歳とかそれくらいだったと思う(前に登場した三姉妹の次女)。


 当時僕はバイトなんていかに楽をするか、ぼーっとしてサボって、ちゃっかり時給だけもらうかが勝負だと考えていたので、二十歳にも満たない小娘が非常に捻くれた小難しいことを発言するなと思って聞いていた。しかも、彼女はその居酒屋さんでのバイトをとても楽しんでいるように見えたので、楽しんでいるバイトの志望動機がこんな薄暗いものだったのかという妙な温度差も感じた。しかし、この違和感のために、このエピソードを今でも覚えているのだ。居酒屋でのバイトを楽しんでいる女の子が「居酒屋は世の中で一番汚い場所だから」という理由で喜んで働いているというパラドックス。


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 しかし、後々気づいたことだが、何事でも、底辺を見ておくこと、知っておくことは確かに重要なのである。たとえば居酒屋さんなら、仲間内で食事にきた連中が酔っ払って次第に喧嘩しはじめその仲介に入ることになったり……、潰れて嘔吐しその処理にあてさせられたり……、と確かにそういう体験というのは、めんどうで気が滅入ることには違いなのだが、じゃあ普段の自分の生活のなかに、めんどうで気が滅入らないことなどあるのかと問われると、答えはノーだろう。つまり、この世の中で生きていくこと自体、めんどうで気が滅入ることばかりなのだ。だから、学生時代に、いかにどうしよもないものを見てきたか、体験してきたかというのは、凡庸なサラリーマンになってから、とても意味のあるものになる。それだけ世の中を知ってるというとなるのだ。思えば、浪人しているとき、授業中先生からの話で、「獄中で生活した人と離婚を経験した人、そして浪人生活をした人間は強いぞ」みたいなのがあった。どん底、挫折を味わったことは、捉え方次第で強みになるということだ。僕は獄中生活も離婚もしたことないが、浪人に関しては、あの1年間はまず間違いなく僕にとっての大きなプラスにになっていることは間違いない。


 世の中というのは、どうしようもないものの塊でできているようなものなのだ。まじめに、きっちり生活していたら、そのどうしようもないものに飲み込まれてしまい、息がしづらくなる。だから、もっと底辺がある、もっと最悪の事態があるということを体験しておくことは、大きな意味を持っていると僕はいつからか信じている。世の中、きれいごとなど何一つ存在しないのだから。