東京エトセトラ@占い1

 よく一緒に遊んでいた女の子がいました。その子は三姉妹の次女で、その姉妹とは3人とも仲良かったのですが、とりわけ次女と一緒にバカなことをすることが多かったのです。


 で、ある冬のことです。久しぶりに食事でも行こうみたいな話になって、夕方だったか夜だったかに吉祥寺にお互い向かいました。そこでどういういきさつがあったか覚えていませんが、「吉祥寺の母」のことろに行って占いをしてもらおうという話になります。吉祥寺の母というのは、新宿の母や銀座の母のような有名な占い師の吉祥寺バージョンです。そういうことで話は決まったのですが、2人とも「吉祥寺の母」が、どこにいるのか知りませんでした。まあ、歩いていれば見つかるだという軽いノリで探しまわるのですが、一向に見つからず(当たり前だ)、そのうちにハモニカ横丁で別の占い部屋を見つけました。もう寒いし疲れたし、ここで見てもらおうと、あっさり妥協し中に入りました。


f:id:junichi13:20080918181050j:plain


 扉を開けると、インド象が鼻を動かしただけですべてが壊滅されるだろう狭いスペースに、マハラジャのようなタペストリーがたくさんぶら下がっており、お洒落な雑貨屋さんのようなお香の薫りが充満していました。そこに古代アラビアの姫様のような格好をした、中年より少し若めの女性がいます。僕ら2人が中に入ると、それでいい感じに満員御礼となるくらいの部屋です。占い師は、使いこなしたタロットカードを切りながら「今日は何を占いますか? 相性?」と僕らのことをカップルか、もしくはカップル成立直前で、あとひと押しのタイミングを見計らっている男女のかように語りかけました。まあ、たいていこういうところに来る男女なんてそんなもんですからね。しかし、僕は「いえ」ときっぱり否定します。そして「僕らは兄妹です」と毅然と嘘をつきました。


 このアイデアは随分昔からありました。占い師に嘘をついたら、どこまで嘘を突き通せるかやってみようと。もちろん、それがばれるか否かも。それをついに実践するときがきたというわけです。


 占い師は、珍しい砂漠の昆虫でも見るような目で僕らを見て、「……確かに。よく見ると似てるわね」と言いました。ホントはわかってたけどね、失敬失敬、とでもいうように。しかし、僕らは似てるなんてこと言われたのはじめてです。もとよりアカの他人ですし、似てる部分など探すほうが難しいくらいです。そしてニセの妹は「よく言われます」と、あざ笑うかのように返答しました。


 僕は「今僕と妹は2人で国分寺で暮らしています」と現実に沿った説明をしました。その方が、何かと話が合わせやすいだろうからです。ホントは本当で、今だけ嘘という形です。「仲が良いのね。お二人はおいくつ?」。僕らはそれぞれ本当の年齢を答えます。「上京してきたのかしら?」。「はい」と答えますが、僕の田舎は石川、彼女は青森です。しかしここは兄の権限で「金沢から出てきました」と先に答えてやりました。ニセ妹は「へへへ」と、傍目から見ると愛想笑い、僕らからしてみれば、ああ、青森って言いたかったのに、先に取られちゃったという笑みを浮かべます。しかしニセ妹は負けていません。「でも、小さい頃は八戸にいました」とかぶせてきました。僕は「ですね」と相槌をうちつつも、なかなかスリリングなことをしてくれるなと思いました。占い師は「あら、そうなの」と言うも、これ以上話を続けなかったことみると、金沢にも八戸にもたいした興味や知識がなかったのでしょう。僕はひとまず安心します。


 つづく。