僕がた食べたうまいもん@スタミナ丼のお店(国分寺)

 ――「国分寺っちゅったらアレですよね、あの美味しいなんとか丼の店、あ~なんやったかなぁ、なんとか丼ですよ、なんかホンマ有名な美味しいお店ありますよね。ぜひ、行ってみてください。ほんで感想も聞かせてください。え? 場所ですか? 知りません」と、国分寺に引っ越した直後、大阪出身の友人が教えてくれた。しかし、詳しい場所も店の名前もさっぱりわからなかったので、聞かなかったこととして忘れていたのだが、別の知人からも「国分寺に住んでるなら……」と教えてもらったので、やっとこさ足を運んでみた。最初に聞いたときから2年くらい経っていた。スタミナ丼のお店。そのまま店名にもなっているスタミナ丼、通称「スタ丼」が看板メニューだ。そのお店は僕の住んでいた北口ではなく、南口のわかりづらい一角にあった。


 ザ・炭水化物。がっちり詰め込まれたご飯の上に、非常に濃い味付けの肉炒めと卵黄が乗っかっている。見た目は淡い色合いで物足りない印象なのだが、食べてみるとパンチ力抜群だ。スタミナ丼というネーミング以外考えれない。そして見るからに手抜きのようにも見える、もやしが浮いた味噌汁があるのだが、なかなかどうして、この素朴な味とディープな味の丼との相性がベリー・グッド。ややもすれば「しつこい」だけの印象で終わってしまうくらいの丼ぶりの緩和剤となり、コンビとして絶妙なハーモニーをつくりだしている。確か550円だった。この値段でこの量、味は、ありがたい。スタ丼以外にもショウガ焼き丼やチャーハンなどメニューは豊富だったが、僕はスタ丼しか注文した覚えはない。


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 一時期、ボクサーの辰吉に似た店長がいた。似ているからか、実際に親戚か何かなのか知らないが、店内に辰吉のポスターがでかでかと貼られており、店長もご満悦の表情でそのポスターを眺めていることが多かった。


 一度、その店長が非常に機嫌の悪いときに来店したことがあった。夜23時ごろだが、会社帰りのサラリーマンやバイトや遊んで帰ってきた学生で、店内は満席に近いくらい混み合っているときだ。僕は食券を買って、さて、どこに座ろうかと店内を見まわしていたら、その店長が僕を睨みながら、手にしていた包丁を僕に向けてちょいちょいと動かした。ここに座れよという合図だろう。僕は、ああ、なんか空気悪いなと思いながらも、指示されたカウンター席に座ってぼっおっと厨房の中を眺めていた。そして、誰かのチャーハンをつくっているときに事件は起きた。


 店長が手にしている中華鍋に、バイトの男の子が具材を入れようとしたとき、手を滑らせ、具材を区分けしてあった容器ごと中華鍋の中に落としてしまったのだ。この雰囲気のなかで、よりによってというようなミスだ。バイトは慌てて熱せられた鍋の中の容器を取ろうとするが、横から機嫌の悪い店長が「てめぇ~!」と切れながら蹴りをビシバシと2~3発かます。もともと店内はガヤガヤしてたので、カウンターに座っている一部の人間しか気づかなかっただろうが、見るからに理不尽で、これから胃を満たそうとしているのに胃が痛くなる場面だった。バイト君は間違いなく指を火傷をしただろうし、大勢の客の前で蹴りを入れられ恥もかいてしまうこととなったのだ。彼は、よくよく目にしたバイトだったが、その後、もう見ることはなかった。辞めたのだろう。まあ、あんなことされてまで続けるような筋合いはないはずだ。さすがにこのときばかりは、まったく美味しく食事ができなかった。中には、厭な思いをしたから、もうあの店には行かないと決めた人もいるはずだ。でも僕はこのあとも、普通に通いつめた。それくらい安くで美味しくて満腹になれたからだ。ちなみに、因果関係は定かではないが、辰吉似の店長もその後すぐにいなくなった。


 金沢に帰ってきて、近所に「スタ丼」のお店ができたというので行ってみたが、まったく違う代物でがっかりした。やはり「スタ丼」は国分寺に限る。


◆名物 すた丼の店 国分寺店 【旧店名】 スタミナ飯店 - 国分寺/定食・食堂 [食べログ]