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僕がた食べたうまいもん@駅前のチャーハン(吉祥寺)

 ――じゃ、給料もらったので、チャーハン食ってきます。


 吉祥寺南駅を降りたすぐ目の前、厭でも人が集まる駅前だから、とりあえずつくってみましたという風なラーメン屋さんがあった。狭く汚い店で、客も学生とサラリーマンだらけという、むさ苦しいところだったが、そこのチャーハンがすこぶる美味いのだ。吉祥寺の南口でバンド・スタジオのバイトをしてた頃、ちょくちょく出入りしていた。そして、給料日にはこのチャーハンを食うというのが、みんなのなかでなんとなくの定番のようになっていた。


 10人くらいで満席になる「く」の字になったカウンターだけの店内で、イスに座ると背中に触れるような位置に出入口の引き戸がある。そして、厨房には2人のオヤジがおり、料理をつくる役とそれを補佐する役と適度に交代しながら店をまわしているのだ。これが一番のポイントとなる。つまり当たりのオヤジとハズレのオヤジがいるということだ。1人のオヤジは、黒縁のメガネをかけており、表情は穏やかそうなのだが、客が来たときも帰るときも特に微笑んだり、かといって混雑しているときにイライラした態度を示すこともなく、ポーカフェイス。淡々と黙々と曹洞宗総本山の修行僧のように、チャーハンやその他の注文を拵えている。もう1人のオヤジは、まず常にヘラヘラしてる。愛想が良いわけではなくヘラヘラかニヤニヤした顔をしている。そして、よくぺちゃくちゃ喋っている。相手はもう1人のオヤジのときもあるし、たまにいるサポートのおばちゃんのこともあるが、返事が来なくてもとにかくよく無駄口を叩いている。当然、前者のオヤジが当たりで、後者がハズレだ。


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 曹洞宗がつくるチャーハンは、美味いチャーハンの代名詞としてのパラパラ加減はもちろん、味付けがしっかりしている。これらの技術的な仕上がりだけでなく、チャーハンとしてコレだ、という確固たる主張ができている。忙しかろうが、暇なときだろうが味がブレてない。これが評判の秘密だろう。そしてヘラヘラのチャーハンは、確かにある程度ライスもパラパラして、味付けも(当然と言えば当然なのだが)しっかりしているのだが、どうもごちゃごちゃとまとまりのない味が分離したまま口の中に入ってくる。落ち着きが無いのだ。鏡を見ずに適当に剃った髭剃りのようにムラがある。だからこの店に入る前には、外から店内の様子を伺い、どちらが中華鍋を振っているかを吟味しないといけない。だが、忙しいときやめんどくさいとき、ハズレのオヤジのときでも妥協してお店に入ったことがある。はたして案の定、当たり損ねのセカンド・ゴロを打った後のような物足りなさを残したまま店を出ることがほとんどだった。料理というものもテクニックや素材だけでなく、その人柄による部分が大きいのだ。


 お店の名前も、少し調べればわかるのだろうけど、あえて調べず、「駅前の店」としておく。それくらいのちょっとした小さなお店だったのだ。