横山秀夫著『クライマーズ・ハイ』を読んで

 2~3年くらい前に買った本で、ずっと本棚で眠らせていました。なんとなく読む気にならなかったのです。またどうせ読むなら、夏のこれくらいの時期に読みたいと思っていたので、気分と時期がなかなか合致しなかったという理由もあります。しかし、いざ読みはじめてみると、コンコルド並のスピードで読み終えました。とてもおもしろかったです。


 1985年8月12日、日本航空123便墜落事故を題材にした小説。この事故当時、僕は小学校2年生で、記憶する限りの一番最初に出くわした大惨事の事故と言えます。ので、毎年この時期になると、強烈な印象とともに思い出してしまうニュースです(だから、この本を買ったのだと思います)。また幼かった僕は、この事故の影響下、飛行機に乗ればそれ相応の確率で落ちることもあるんだと、間違った知識を抱くようになってしまいした。しかし歳を取るにつれて、飛行機は実は他の移動機関に比べると事故率が低い安全な乗り物だということを知り、そしてこの事故よりももっとショッキングで悲惨で、また理不尽だったり不可解な事故が、毎年毎年起こっているんだということを知ります。


 ともかく、この小説は、事故を取り扱う地元の新聞社が舞台。事故の取材や記事原稿の締め切りに関しての連絡で、ポケベルを駆使しているあたりに時代を感じました。「2時間前にポケベルを入れたが、いまだ返事がない」というような場面が幾度となく出てきて、致し方無いとはいっても、当時は結構不効率な仕事の進め方をしてたんだなと。また、この物語の中では、精魂込めて朝刊記事を拵えているのですが、今では、次の日の新聞の記事というものが、当時ほどの重要度を持っていない気がします。そもそも、事件事故の情報やネタは、朝刊を待たずとも、今では順次ネットで公開されるし、そもそも各メディアなんかよりも、一般市民のツイートやスマートフォンの動画の方が、より決定的なシーンを捉えていたりするわけです。


 しかし、その報道のスタイルが変わってしまっても、大きなニュースを伝えるというメディアの使命感のようなものは普遍的だとも感じました。この普遍性が、この物語を読み応えのあるものにしている気がします。だから、1985年の事故の話を読みながらも、僕の頭の中では、東日本大震災のことが離れませんでした。きっと2011年の事故の裏側でも、このような熱いやりとりがあったのだと考えると、さらに深みのある物語のように思えてきます。


 今年2012年も、当然のことですが8月12日はやってきます。あれからもう27年です――。


【送料無料】クライマーズ・ハイ

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価格:700円(税込、送料別)

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とはー。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
横山秀夫(ヨコヤマヒデオ)
1957年東京生まれ。国際商科大学(現・東京国際大学)卒業後、上毛新聞社に入社。12年間の記者生活を経てフリーライターとなる。91年「ルパンの消息」が第9回サントリーミステリー大賞佳作に選ばれる。98年「陰の季節」で第5回松本清張賞を受賞。2000年「動機」で第53回日本推理作家協会賞・短編部門を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)