古賀茂明著『官僚の責任』を読んで

 まず僕は「官僚」という職業がどういうもので、何をしているのかあまりピンときませんでした。よく聞くワードではあるけど、政治家とはどう違うのだろうかと。で、ざっくり調べてみると、日々ニュースでお目にかかる政治家先生というのは国を繁栄させるための政策をおつくりになるのが主な仕事。しかし、うまくいかなければ批判され、ご存じの通り政党は交代させられることもあります。それに対し、官僚は決められた政策を実行する組織だとか。だから、僕のイメージするところでは、官僚は政治家の下請け組織みたいなものかなと。しかし総理大臣や政党がころころ入れ替わっても、いわゆる官僚は公務員であるのため矢面に立ったりクビを切られたりすることなどありません。命令する人々が変わるだけ。だから、ある程度身分も保障され、かつ民間企業への天下りであったり、公務員ならではのお気楽主義やぬるま湯関係といった悪しき習慣に浸っておられるのが官僚の実体なのだとか。ましてや、官僚のほとんどが東大法学部卒とあり、豊富な知恵をお持ちなので、当たり障りなく自分たちの私腹を肥やす能力にも長けているときたものです。


 こういった本を読んでいると、庶民凡人の知らないところで、汗もかかずにお金が動いているんだなと、少し悲しい気分になります。しかし、僕も実際に、それ相応の努力のすえ、官僚という身分を手に入れたなら、「国のために身を焦がして働く」などという大義名分など上辺だけにし、いかに楽をして美味しいところを手に入れるかだけを日々考えて生活するだろうなと思います。「官僚はけしからん」という腹立たしさもありましたが、少し客観的に考えると、楽できるなら楽するよなぁ、人間だもの。という結論で納得してしまう自分もいます。だって目の前にそういう仕組があるのですから。


 僕は政治も経済も特別詳しいことは知りません。でも、最近のニュース番組などを見ていると、何世紀も前につくられた政治体制や世界のお金の流れってものに、限界がきてるのかなと感じてしまいます。一部に富が集まり過ぎていると。もちろん、富を抱える者はそれなりの努力をしたでしょう。しかし、問題はそのまわりにいる「ちょっとうまいことやってる」濡れ手に粟の人々が多すぎるような気がするのです。


 事実、この本の最終章に、じゃあこれからの日本はどうしていけば良いのかという話の中に、「ちょっとかわいそうな人は救わない」という意見がありました。最近話題になった生活保護にしても、そもそもは「とてもかわいそうな人」から「ちょっとかわいそうな人」まで、ごっそり助けてあげようとしてるから、ズルをしようとする人間が出てきたわけだと思います。「とてもかわいそうな人」の権利を、オレもオレもと「ちょっとかわいそうな人」までが貪ろうとしたわけです。同じように、今の世界では「とても努力した人」と同じくらいの富を「ちょっとうまい方法を知ってるだけの人」まで抱えられる世の中になっているような気がします。ルールの抜け穴みたいな部分にちゃっかり収まって、甘い蜜を吸っているわけです。その一つが、日本の官僚という人たちなのかなと思いました。


 完成された仕組み、システムというのは、高く、強く、あまりにも冷たいのだということを思い知らされました。卵は壁にぶつかって壊れるだけの存在なのでしょうか。僕は、村上春樹の「壁と卵」スピーチに反し、壁の側につくのが実は賢明な生き方なのかなと思ってしまいました。


◆【村上春樹】村上春樹エルサレム賞スピーチ全文(日本語訳)


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【内容情報】(「BOOK」データベースより)
霞が関は人材の墓場」-著者はそう切り捨てる。最高学府の卒業生、志を抱いて入省したはずの優秀な人間たちが集う日本最高の頭脳集団。しかし彼らの行動規範は、「国のため」ではなく「省のため」。利権拡大と身分保障にうつつを抜かし、天下りもサボタージュも恥と思わない…。いったいなぜ官僚たちは堕落の道をたどるのか?逼迫する日本の財政状況。政策提言能力を失った彼らを放置すると、この国は終わる。政官界から恐れられ、ついに辞職を迫られた経産省の改革派官僚が、閉ざされた伏魔殿の生態を暴く。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 「政治主導」が招いた未曾有の危機(早まった日本崩壊のカウントダウン/テレビドラマ程度の対応策すら実行できなかった政府 ほか)/第2章 官僚たちよ、いいかげんにしろ(発送電の分離は十五年前からの課題だった/原発事故の一因は経産省の不作為にあり ほか)/第3章 官僚はなぜ堕落するのか(改革派から守旧派へ転じた経産省/規制を守ることが使命という「気分」 ほか)/第4章 待ったなしの公務員制度改革(増税しなければ国は破綻するという脅し/官僚一人のリストラで失業者五人が救われる ほか)/第5章 バラマキはやめ、増税ではなく成長に命を賭けよ(ちょっとかわいそうな人は救わない/年金支給は八十歳から? ほか)

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
古賀茂明(コガシゲアキ)
1955年長崎県生まれ。経済産業省大臣官房付。東京大学法学部を卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。大臣官房会計課法令審査委員、産業組織課長、OECDプリンシパル・アドミニストレーター、産業再生機構執行役員、経済産業政策課長、中小企業庁経営支援部長などを歴任。2008年国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に就任し、急進的な改革を次々と提議、「改革派の旗手」として有名に。09年末に審議官を退任したあとも省益を超えた政策を発信し、公務員制度改革の必要性を訴えつづけた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)