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僕が働いた場所@編集プロダクション2(2003~2005年)

note tokyo

 アマチュア劇団の話。


 会社としてのメインの業務は、劇団のチラシを刷る印刷業だった。それに加え新聞の折り込み紙も作成しているといったバランスである。ここでも再び売上のことは一切聞かされていなかったが、収入のメインはチラシ印刷の方だった。しかし、社長夫婦は元々ミニコミの編集系の仕事をしたかったため、編集の勉強をしてきた僕を雇って、副業としての新聞の折り込みのミニコミ業務にも力を入れることにしたのだとか。ちなみに僕はこの先、メインの稼ぎとは別のサブの仕事に携わることが多くなる。


 ともかくこの職場で知った新しい世界として、アマチュア「劇団」というものがある。僕は周知の通りアマチュア「バンド」をやっていたのだが、当然世の中にはアマチュア「劇団」というものもあり、役者志望の若人が日々汗水を流しているわけだ。もちろんその他にも、世の中には数多くのアマチュアが存在するわけではあるが、ここでミュージシャンのタマゴと役者のタマゴの相違点を挙げてみる。


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 バンドやってる人間というのは意外と小心者だったりする。小さい頃太ってて醜かったから音楽やってかっこ良くなりたかったとか、クラスの女の子に話しかける勇気がないので歌をつくってみたとか、そういう内向的な部分が根底にあり、楽器やヴィジュアルで人間的に足りない部分を着飾っていることが多い。しかし役者というのは、そんなちまちましていない。俺が俺がと、まわりの人間を押しのけて前に出る根っからの目立ちたがり屋ばかりなのだ。自分に足りない部分などないと信じて疑わない。ナポレオンやヒトラーみたいな信念を皆持っている。そして彼らは皆、バンドマン以上に貧乏だった。理由はバイトがなかなかできないからである。公演がはじまると長期(2週間とかそれ以上とか)で休みが必要になり、そんな融通が利く働き口などそうそうない。だから、条件の悪いバイト先になるし、そもそも公演中は働けないので稼ぎはない。


 会社ではそんなアマチュア劇団を応援するホームページをつくり(そして公演の際のチラシ印刷は当社で! みたいな導線だ)、特集記事にするため、何度か劇団が練習しているところへ見学に行ったことがある。たいていの劇団の稽古場は公民館のような公共の場を借りて行われていた。大学のサークルであれば、それ専用の稽古場があるだろうが、卒業したら使えなくなり、練習にもお金がかかるようになるわけだ。そして彼らの貧乏は加速していく。


 稽古場では皆ジャージにTシャツを着て、片手には丸めた台本、首には汗拭き用のタオルをかけて、お芝居の練習をしていた。「密着、トップ・アイドルの舞台裏」みたいなテレビ番組で見るのと同じだ。演技中に、主宰や演出からのダメ出しが飛び、鬼気迫る迫真の演技を見せる。もちろん泣くシーンでは涙を流す。僕1人だけ部外者ということもあってか、この雰囲気に圧倒されると感心せざるを得ない。役者ってすごいなと思った。


 しかし、こいつらとは友達になりたくないなと誰もが思うだろう。練習段階からここまで鬼気迫る演技を見せられると、どこまでが本心でどこからが演技(嘘)なのかわからないからだ。またチラシの依頼に来て、支払いにぐずる連中を見てると(直接の担当ではなかったが)、どうにも腹が立ってくることが多かった。我が強く金が無いと、どうしてもやっかいな人になってしまうわけだ。


 とはいえ舞台での演技や劇団としてのお芝居は感動するものにも数多く立ち会えたのも事実だ。舞台は映画なんかよりも演技する方も観る側も緊張感があるからダイレクトにメッセージが伝わってくるのだ。今でもたまに、お芝居を観たくなるときがある。そう考えると、演技というものは、彼らが努力の末に身につけたヒトを楽しませるためのであり「嘘」などと言うのは野暮なんだと思う。友達になりたいかどうかは別として。


 すこぶる不可解な会社でニッチな仕事をしていたのだが、そこで目にしたことや経験したことは、当時はもちろん、今の僕にとっても良い肥やしになっている気がする。