『人生で本当に大切なこと 壁にぶつかっている君たちへ』を読んで

 世界のホームラン・キング王貞治氏と前サッカー日本代表監督岡田武史氏との対談集。サブタイトルからもなんとなく伝わってくるのだが、中高生の「道徳」の時間(そんな授業が今でもあればの話だが)の題材になりそうな内容だった。


 そんななか気になったことは、「勘」という言葉が随所に出てきたこと。おニ人とも小難しい理論や理屈よりも、その瞬間にひらめく「勘」を大事にしておられるというような会話が随所に出てきた。個人的な意見だが、「勘」に優れている人というのは根っからの天才肌の人だと思っている。また、ちょうど同じ時期に読んでいた文庫の『1Q84』にも「才能で飯は食えないが、勘があれば食いっぱぐれない」みたいなセリフがあった。実にその通りだと思う。そして僕は「勘」について考えざるを得ない。


 まず僕は「勘」という言葉をあまり使わないし、「勘」という能力自体あまり好きではない。自分には、なにかの役に立つような「勘」なんてものはろくすっぽ兼ね備わってないという自覚があるからだ。単純に優柔不断だということもあるが、頭の上に豆電球が登場するようなひらめきが起こったことや直感が働いたなんてことはない。だから、成功事例に対して「それは勘だよ、勘。キラッ」みたいなコメントには感心よりも先に嫌味を感じてしまう。


 しかし、王さんや岡田さんが「勘だ、勘が大事だ」と主張しあってるのを読んで、「勘」というのは、先天的に持って生まれた才能の一部なんかではなく、ある一つの事柄を辛抱強く続けたり、じっと脇目もふらず考えめぐらすことで後天的に身につくものなのかなとも思えてきた。おそらく、王氏も岡田氏もガムシャラに練習や努力することなど意識もせず当たり前のこととしてトライしており、それも限界の先端まで自分を追い詰めて、その最後の最後にポッとひらめく「勘」ってものによって、彼らの成し遂げた周知の通りの結果が生まれたのだろう。


 でもそう考えると、その泥臭く地味なプロセスの部分をすっ飛ばして、「勘が大事」なんてことを、軽々しく世界の王や一世を風靡した岡ちゃんが言っちゃうと、それこそ中高生のような若い人は「ヒラメキさえあれば、成功できんじゃねーか」みたいに勘違いするのではないかなと、老婆心ながら心配になってきた。彼らが言っているのは、本当に努力した先にある「本物の勘」だということに、今の若い人は気づくのかなと。たしかに「勘」ってのは、すこぶる大事だなと思うけれど、反面、その場しのぎの「思いつき」と混同してしまうこともあるわけだ。僕がこれまで「勘」って言葉を好んで使わなかったのは、相手に誤解を与えかねないリスキーな言葉だということもあったのかもしれない。一時的にも物書きをやっていた人間としての勘として。


【送料無料】人生で本当に大切なこと

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価格:798円(税込、送料別)

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
最初から何もかもがうまくいく人なんていない。失敗したり挫折したり、時に不安で眠れなくなったり…。野球とサッカーで日本を代表する二人は、そんなときをいかに乗り越えてきたのか。「成長のためには怒りや悔しさを抑えるな」「人生は『3歩進んで2歩下がる』の繰り返し」「選択に迷ったら難しいほうを選べ」「小さいことに手を抜くと運が逃げる」「欠点には目をつぶり長所を伸ばせ」等々、プレッシャーに打ち克ち、結果を残してきた裏には、共通する信念があった。実は順風満帆に進んできたわけではない二人が、人生の「試練」の意味を問う。

【目次】(「BOOK」データベースより)
僕たちもこれまで、たくさんの「不安」や「悔しさ」を味わってきた/どんなに順調そうに見えても右肩上がりの人生なんてない/何を選んでいいかわからないときは、いちばん難しいものを選べ!/あれこれ悩むより、とにかく行動せよ!/夢中になると、すごいエネルギーがわいてくる/人生で成功するカギは「出会い」/「運」のいい人、「運」の悪い人って本当にいると思う?/「あそこが悪い」「ここを直せ」という大人は信用するな!/「身体」は一生裏切らない/人のせいには絶対しない/プロの世界とはどういうものか、教えてあげよう/どんな小さなことでも言い、若いうちからリーダーシップを学んでほしい

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
王貞治(オウサダハル)
1940年東京都生まれ。早稲田実業学校から読売巨人軍に入団。77年に世界記録となる通算756号本塁打を放ち、初の国民栄誉賞を受賞。数々の記録を打ち立て、80年に現役引退。巨人監督(84~88年)、ダイエー及びソフトバンク監督(95~2008年)を務める。06年には第1回WBC日本代表監督として指揮をとり優勝。現在は福岡ソフトバンクホークス球団取締役会長

岡田武史(オカダタケシ)
1956年大阪府生まれ。サッカー日本代表前監督。早稲田大学政治経済学部を卒業後、古河電気工業サッカー部(現ジェフユナイテッド市原・千葉)に入団。98年フランスで行われたW杯に初出場の日本代表監督を務めた後、99~2001年コンサドーレ札幌監督、03~06年横浜F・マリノス監督を歴任。10年南アW杯で再び日本代表監督を務め、ベスト16進出を果たす(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)