僕が住んでみた町@石神井2(1998~2000年)

 引越しにて。


 少し話を前に戻します。石神井に引っ越すにあたっての出来事です。不動産屋さんで紹介されたある物件がありました。それは「訳あり物件ですが、ひとつオススメがあります。どうでしょう?」と言って紹介されました。


 聞くと、1~2年前に殺人事件のあった物件で、実際にそのマンションのある部屋で、人が殺されたそうです。たしか刺殺だったとか。ただ、担当者が言うには「さすがに事件のあった部屋ではありません。事件のあった部屋とは遠くはなれた別の部屋が空いており、またこういった経緯から家賃もとても安くなっています」とのこと。実際に、駅からも5分ほどで8畳という広い部屋に関わらず、家賃58,000円ほどととても安かったのです。で、その後、どういうやりとりがあったのか思い出せませんが、僕はその物件に決めるということでサインをしました。まあ、実際に人が死んでる部屋ではないし、駅からも近いし、家賃も安い、なにより部屋も広い、それに他に気に入った物件もない、じゃしょうがない、ここにしようと。しかし、学生という身分のため保護者のハンコがないと正式契約に至らないので、必要書類を両親に送り、ハンコをもらい送り返してもらい、それを不動産屋さんに提出し契約完了という流れです。


 ということで書類をもらって、西ヶ原の家に帰りました。


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 で、その夜、さていよいよ引越しかと考えるのですが、夜になって「殺人事件のあったマンションに引っ越す」という現実を思いめぐらすと、昼間とはうって変わって急に気味が悪くなってきました。電気を消してベッドに入って、自分が何も知らない殺人事件のことを思いめぐらすと本当に震えるほど恐くなってきて、起きて部屋の明かりをつけなければいけなくなったほどです。そこで暮らしていたら、死んでしまった誰かが、「どうしてそれを知っててわざわざこんなところに引っ越してきたんだ?」と毎晩僕のことろにやってくるような気がしてきました。とうか、今既にこの西ヶ原の部屋にもその誰かが来ているんじゃないかとすら思えてきます。で、よくよく思い返してみると、担当者は「いやあ、私はこういう事件とか事故とかまったく気にしないし、いわゆる心霊現象とかそういうのもまぁ~ったく信じないんで、とってもお得だし、私なら絶対ここに住みますね!」と仕切りにつぶやいていたことを思い出しました。お決まりの営業トークなんでしょう。この他人の意見とやらにまんまと引っ張られたわけです。でもちろん次の日に不動産屋さんに断りの電話をしました。で、その際、気味が悪いんでやめます、と言うとビビリだと思われると思ったので、「契約書にハンコをもらう際、親に強く反対されました」と嘘をついてキャンセルしたのを覚えています。


 で、再び不動産屋さんに行くと、「いやぁ、ちょうどたった今いい物件がひとつ空いたんですよ」と言って、実際に住むことになるロフト付きの部屋を紹介してもらいました。もちろん、その部屋も隠してただけでずっと前から空いてたのでしょうけど。そしてさっそく部屋に案内してもらい、現物の部屋を見せてもらいました。自分のなかでは、もうここで良いかなと思っていたのですが、先の事故物件の件もあるのでどうも決めかねていると、今度はこんな質問をされました。「ちなみに今、この何もない状態ですけどこの部屋に点数をつけるとしたら何点でしょうか?」と。僕は「……だいたい70点くらいですかね」と答えました。実際にはけっこう気に入っていたので80点くらいだと感じてたのですが、なぜか少し低めに答えました。ですが、「え! ホントですか!?」と驚かれ、「じゃあ、もうここにしましょう!」と興奮気味に言われました。理由はこういうことです。「一般的に何もない状態で60点もあれば、もうその物件は買いです。そこにご自分のお気に入りの家具をレイアウトすることでプラス40点、充分100点満点の部屋にすることができるんですよ。それでお客様、今の状態で70点なら楽勝に100点の部屋にできますよ」と。事実僕は自分の部屋づくりにはこだわりがあったし、自分好みの100点の部屋をつくりたい、つくれるだろうという思いもあったので、その口説き文句は効果的でした。「そうですね、じゃここで」と決めました。


 今思い返すと、人に物を買わせる、買うことを決断させるってのはたいへんだな、特に優柔不断な学生なんかを相手にしてる人はイライラするだろうなという思い出であり、いくつかのテクニックを学んだ引越しでした。