『め~てるの気持ち』を読んで

 同僚に薦められたてiBooksで購入した漫画。作者はGANTZで有名な奥浩哉で、この『め~てるの気持ち』は同時期に連載されていた(2006~2007年)作品らしい。

 美女と野獣よろしく、美女と引きこもりの2人の物語。少し不思議系の美女が献身的に偏屈な引きこもりを改心させようとしながら、当然恋愛要素も絡みつつ展開していく。かなりテンポが良く、四コマ漫画を見ているようなフットワークの物語構成だった。ただ、主人公が引きこもりなので、基本的に家の中だけで話が展開するので、正直大きな山場がなかったかなといのが第一印象。そもそも全3巻なのでドラマチックな展開を期待するのもコクかもしれないが、もっと大きな見せ場やアクシデントや波乱があってもよかったかなと。


 ただ、物語の裏側では、「喪失」と「喪失からの変化(成長)」というものをテーマとしているように感じた。登場人物すべてが(僕らだってそうなのだが)、何かを失い、その代償として何かを得ている。引きこもりの主人公も様々なものを失っているのだが、何も得ようとはしてない(そもそも、引きこもりなんてそんなもんだ)。そこに美女が出てきて背中を押しているわけだ。まあ、ありがちと言えばそれまでだが、短い話なので、さっと読んでみるのも悪くないと思われる。



小泉慎太郎・30歳・童貞。ひきこもり歴15年。ネットと少年マンガを生き甲斐に日々を過ごす彼だが長年戦い続けてきた父親が突然の再婚! 現れたのは自分よりも“年下”の母親・はるかだった。健気でキュート、でもちょびっとガンコな母親とひきこもりのダメオトコの、3歩進んじゃ2歩下がる長い長~い日々が幕を開ける…!!

『三四郎』『それから』を漫画で読んで

 最近、自分の中で漱石ブームなので、前期三部作である『三四郎』と『それから』の漫画版ををiBooksにて購入。どうして漫画版を買ったかというと、オリジナルの小説では、おもしろさはもとより世界観すら把握できなかったから、漫画で全体像を掴んでやろうと思ったわけだ。


 まず『三四郎』に関して。ざっくりあらすじだけを言うと、新しくはじまる大学生活のために田舎から上京してくる主人公が、東京という大都市で多くの人間と出会い、揉まれ、そして不思議な女に恋してしまうというストーリー。青二才の上京物語といえる。僕が好きで一番食いつきそうなテーマだけど、これまで3~4回読み返すも、まったくおもしろみを見つけられずにいた。というのも、何事にも奥手で存在感の薄い主人公と、何を考えているかわからず捉えどころのない美禰子というヒロインがどうも好きになれなかったのが理由だと思う。もう主演の二人が僕にとってのストレイ・シープなのだ。


 次に『それから』。小説ではこの話の方がさっぱり印象がない。略奪愛をするもバッド・エンドというくらいの内容しか覚えていなかった。でも改めて漫画で全体像を掴んでみると、これまた非常に深い。特に主人公の特定の女に恋をし、結婚しない理由(言い訳?)が鋭い。初期の村上春樹のような主人公のデタッチメントが物語の主となっていると感じた。漫画を読んでみて、どちらかというと『それから』の方を再度読みなおしてみたくなった。


 この二作品を漫画を読んでみて感じた事が、漱石って下手な女流作家よりもずっとディテールにロマンチックなエッセンスを忍ばせているんだなということ。恋をした人間が持つ葛藤や、恋ができない人間が感じる憂いを非常に繊細で耽美に表現している。それが100年前の切り出し方であっても色褪せていない。まあ、自由恋愛が一般的ではない「時代」というものを僕が知らなかったせいで、小説では理解できなかった部分が大きくあったのだろう。やはり時代、常識が大きく違う物語は、注釈や「絵」がないと吸収しきれない。前期三部作のもう一作品『門』も読んでみたいのだが、漫画版はないようだ、残念。



「迷える子(ストレイ・シープ)ーーわかって?」
東京の大学に入学するため、熊本から上京した小川三四郎。彼にとって東京は、見るもの聞くもののすべてが新鮮な驚きに満ちていた。やがて三四郎は、都会育ちの美しい女性・里見美禰子に強く惹かれていく。だが美禰子は「迷える子(ストレイ・シープ)」という言葉を三四郎に幾度となく投げかけ、曖昧な態度を続けるのみであった…。
『それから』『門』へと続く夏目漱石・前期三部作の第一編。



僕はどうしても結婚しなければいけないんですか?
明治時代後期、新興ブルジョアである長井家の次男・代助は大学を卒業後、親の援助のもとで定職にも就かず、数ある縁談話も断り独身生活を守り続けていた。 愛に対しては淡泊な代助だったが、友人夫婦との再会で、己の中の真実の愛に気づいてゆく……。
近代社会の孤独な人間心理を描く夏目漱石前期三部作のひとつを漫画化!

夏目 漱石(1967~1916)
帝国大学英文科卒業後、松山中学校などを経て、イギリスへ留学。帰国後、東大講師を務めながら作品を発表。朝日新聞社入社後は本格的に職業作家としての道を歩み始めるが、晩年は胃潰瘍と糖尿病に悩まされ、「明暗」で絶筆となった。その他の作品に「坊っちゃん」「夢十夜」等。

ストレイ・シープ2016

 何でも今年2016年は、夏目漱石没後100年の年なんだとか。命日でもある12月9日のテレビ番組で知った。最近の話だ。


 とはいえ、漱石に対して僕はそこまで読み込んだわけでもなく、中学生などの読書感想文の雄『吾輩は猫である』『坊ちゃん』は読んだことすらない。『こころ』にはいたく感銘を受けたが、『三四郎』も『それから』もいまいち読み込めなかったし、『門』『行人』『彼岸過迄』『坑夫』『夢十夜』等々の代表作も、一度手に取ったはいいが最後まで読み切れず、途中で放り投げた次第。そもそも明治の作家なので、時代はもとより「日本語」にも違和感があり、読解力のない自分にはすんなり馴染めなかったのだと思う。ということもあってか、僕の中での漱石は教科書で習っただけの文豪でしかなかった。同じ教科書に出てくる作家としては、太宰治の方が好きだったし、実際若いころはダザイにかぶれていた時期もあったのは確か。ところが、30代も中盤になった頃からは、どういうわけか夏目漱石という文豪に魅力を感じるようになった。おそらくその最初のきっかけというのは、「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したという逸話だったと思う。明治の文豪とかいうガチガチにお堅い人間かと思ったけど、なんかお洒落だなと。次には、『三四郎』にて、「ストレイ・シープ」という奇妙なワードが心に引っかかったことを覚えている。こちらは、先ほどとは逆の翻訳で、「迷子」の英訳としての言葉。物語全体として当時たいしておもしろいと感じなかったのだが、このヘンテコな言葉だけは頭に残っていた。迷える羊、ストレイ・シープ。


 漱石没後100年の今年は、漱石にスポットを当てたドラマやテレビ番組を見ながらこの2つの翻訳を、よくよく思い浮かべた。


◆「今年の漢字」は「金」


 ということで、毎年恒例、僕の僕による僕のための今年の漢字は「羊」。ストレイ・シープな1年だったと思う。非常に迷える1年だった。とはいえ「迷」というほど混乱してたわけでもないので、「羊」がちょうどいいかなと。


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 そんなこんなで最近は漱石に再注目している。とりあえず『三四郎』と『それから』を漫画で読んでみたが、非常におもしろかった。さすがは心理描写の神。鬱(神経衰弱)の先駆者。漱石の生きた100年前の激動の明治維新は、昨今のグローバル化とも似ている。来年2017年は、漱石生誕150周年らしいので、もう一度読み切れなかった漱石作品を読んでみようかと思っている。迷いを払って、則天去私の境地に至るように。

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観て

 2000年日本公開。デンマークの映画とか。デンマークの映画とか言われても、今ひとつピンとこないし、正直、デンマークでも映画って撮ってたんだと思ったくらい。でも、映像とか人間味からは、北欧風の物寂しさが感じられて良かった。北欧に行ったことないから、アクマで個人的なイメージだけの感想だけど。第53回カンヌ国際映画祭では最高位のパルム・ドールを受賞。ビョークは主演女優賞を獲得、またレディオヘッドトム・ヨークも参加した『I've seen it all』は話題を呼び、ゴールデングローブ賞およびアカデミー賞の歌曲部門にノミネートされた。次第に視力を失っていく主人公セルマが、視力だけでなく仕事も失い、友人に裏切られお金を盗まれ、それでも最愛の息子を守り続けようとするストーリー。この喪失の連続の中で、セルマの妄想をミュージカルで描いている。


 2000年というと、僕はビョークを聴きはじめたくらいの時期で、動物の本能が絞り出す唸りのような彼女の力強い歌声に魅了され、聴き入っていた。また、アンプラグド・ライブでの「Violently Happy」の、すべてのプレイヤーが神がかっているパフォーマンスも僕にとって強烈なインパクトを残し、以来ビョークのい大ファンになったのもこの頃だった。



BJÖRK - Violently Happy [Live@Unplugged MTV 1994] HQ


 ところが、この映画は観ていなかった。理由はすこぶるシンプルかつ偏ったもので、急に歌ったり踊ったりするミュージカル要素が入り交じった映画だということを毛嫌いしていたから。が、さすがに当時から10年以上も経ち、ミュージカルがどうこうと、くだらないより好みをするような年齢でもなくなったので、WOWWOWで視聴することにした。というか、たまたまWOWWOWの放送リストで見つけたので、何日も前から楽しみに待って、満を持してチャンネルを合わせたわけだ。


 この映画の評価として、とにかく「後味の悪さ」「鬱」というワードを目にする。よくあるまとめサイトで必ず上位に出てくる。だが、個人的には、そこまで強くロウな気分にはならなかった。おそらく要所要所で登場するミュージカル部分でどこか滑稽な印象を受けてしまい、感情移入しきれない自分が居たのだと思う。おっと、ここで踊りだすか、みたいに。暗の本編と、明を仄めかす主人公の「妄想」としてのミュージカル・パートが綺麗に分離されてしまい、「暗」に染まりきらなかった気もする。もしくは、(認めたくないが)暗い物語に対しての免疫がつくだけ自分が歳を取ってしまったのかもしれない。これくらいの不幸な人間は、まあ確かに居るだろうねと。まあそうじゃなきゃ良いが。だからだろうか、ラストシーンにて、一縷の希望が見えた部分も不明瞭なままにし、救い様のない閉塞感のまま終わっても良かったんじゃないかと思ったくらいだ。


 ちなみに当時聞いた記憶があるのだが、ビョークは、このセルマという主人公の役作りのために2年ほどの期間を費やし、その後セルマからビョークに戻るのにも同じくらいの時間がかかったという話を聞いたことがある(真意は定かではない)。確かにバカ正直でメガネがキュートなセルマという女性は、アヴァンギャルドビョークとは、まったく正反対だからね。だからなのか、僕はこういう不器用な生き方をする人間は好きじゃないのだけど、セルマという女性には強く魅力を感じてしまった。彼女に想いを寄せるジェフにも共感でき、つらい気持ちになった。ともかく映画としての完成度はとても高い。カメラマークも僕の好きなタイプ。鬱な気分になるか否かは、わからないが、観ておいて損はないと思う。


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【ストーリー】
セルマ(ビョーク)は女手ひとつで息子を育てながら工場で働いている。彼女を母のように見守る年上の親友キャシー(カトリーヌ・ドヌーブ)、何かにつけ息子の面倒を観てくれる隣人ビル(デビット・モース)夫妻、セルマに静かに思いを寄せるジェフ(ピーター・ストーメア)。様々な愛に支えられながらもセルマには誰にも言えない悲しい秘密があった。病のため視力を失いつつあり、手術を受けない限り息子も同じ運命を辿るのだ。愛する息子に手術を受けさせたいと懸命に働くセルマ。しかしある日、大事な手術代が盗まれ、運命は思いもかけないフィナーレへ彼女を導いていく・・・。
【解説】
衝撃の感動は世紀を越え、全世界へ! 日本中が涙した、魂を揺さぶる感動作! セルマは祈る、息子ジーンのために。

宮沢りえ主演「紙の月」を観て

 銀行員の主人公、宮沢りえが、年下の不倫相手と遊ぶために不正に銀行の金を使い込むというサスペンス・ストーリー。もともとはまじめな性格の主人公のタガが外れていく展開が観処かなと。金と色で人が狂っていくというのは、ありふれたテーマだが、妙に生々しくリアルに描かれておてり、観ている方にも快感を含む罪悪感を感じてしまう演出に観入ってしまった。2014年公開。


 自分の場合は、インターネットの仕事をしており、仕事上、客から直接現金を受け取る機会というのがほとんどない。ネット・バンク経由だったり、銀行振込で支払いが行われるからだ。だが、世の中の仕事のほとんどは、現金を直接手にすることで成り立つ。ので、毎日毎日他人であったり会社のものである大金を見たり手にしたりしている人間は、「ちょっとくらい盗んでもわからないんじゃないか?」という気にならないものかなと、余計な心配をしてしまうこともある。だって例えば、10,000円を受け取っても、9,000円しか受け取ってないことにすれば、1,000円は懐に入れることができる。もちろん、そんな誤魔化しは容易にできないはずなのだが、なんとかできるを見つけさえすれば、当たり前のようにできる。帳面を書き換えたり、ダブルチェックのルールを無視したり、架空の請求書や納品書を拵えればいい。現金チェックというのは札束の数えるのではなく、帳面やエクセルを見ることである。だから、データさえ書き換えてしまえば、誰にもわからない。問題は、それを思いつくか否かと、思いついたとしても実際にやりきる勇気があるかないかだ。この映画では、男に貢ぐという目的のために、何でも実行してしまう女の芯の強さが感じられ、不思議と共感できてしまった。


 原作は、角田光代さんということで、小説も読んでみたいと思ったのだが、残念ながらiBooksでは売ってないようだ。


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【内容情報】(「BOOK」データベースより)
ただ好きで、ただ会いたいだけだった。わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が1億円を横領した。正義感の強い彼女がなぜ?そしてー梨花が最後に見つけたものは?!第25回柴田錬三郎賞受賞作。